「即戦力のフリーランスに仕事をお願いしたい」
「社員を雇うほどではないけれど、専門的な業務を外部に委託したい」
こうした理由から、個人事業主への業務委託を検討している経営者や担当者の方は年々増えています。しかし、いざ進めようとすると、こんな疑問が浮かぶのではないでしょうか。
「そもそも個人事業主を”雇う”ってどういう意味?」
「税金の処理はどうするの?」
「違法にならないか心配…」
実は、「個人事業主を雇う」という表現自体、法的には正確ではありません。個人事業主との関係は「雇用」ではなく「業務委託」であり、そのルールを正しく理解しておかないと、知らぬ間に法律違反を犯してしまうリスクがあります。
はじめて業務委託を検討している方から、すでに運用しているが不安を感じている方まで、実務にすぐ活かせる内容をお届けします。
そもそも「個人事業主を雇う」は正しい表現?
「雇う」と「業務委託」は法的にまったく別物
日常会話では「フリーランスを雇う」「外注先を雇う」という言葉をよく耳にします。しかし法律の観点から見ると、「雇う」という行為は雇用契約の締結を意味し、業務委託とは根本的に異なります。
この違いを曖昧なまま放置しておくと、契約トラブルや税務上の問題、最悪の場合は法律違反につながりかねません。まずはこの二つの違いをしっかりと理解することが、すべての出発点となります。
| 比較項目 | 雇用契約 | 業務委託契約 |
|---|---|---|
| 法的根拠 | 労働契約法・労働基準法 | 民法(請負・委任) |
| 当事者の関係 | 使用者と労働者(上下関係) | 対等な事業者同士 |
| 指揮命令 | 使用者が労働者に指示できる | 発注者は指示できない |
| 時間・場所の拘束 | あり | 原則なし |
| 社会保険 | 加入義務あり | 加入義務なし |
| 給与・報酬 | 給与(所得税を源泉徴収) | 報酬(種類により源泉徴収) |
| 解雇・解約 | 解雇規制あり(労働基準法) | 契約書の規定に従う |
個人事業主は「労働者」ではなく「独立した事業者」
個人事業主とは、会社に所属せず自ら事業を営む人のことです。税務上は「事業所得」として申告を行い、社会保険も自分で加入します。
つまり、個人事業主に業務を依頼するということは、会社同士が取引をするのと同じ構造です。「雇う・雇われる」という主従関係ではなく、「依頼する・受注する」という対等なビジネス関係として捉える必要があります。
なぜこの違いが重要なのか
この違いを理解せずに業務委託を進めると、以下のような問題が発生するリスクがあります。
- 偽装請負と判断され、労働基準法違反になる
- 税務上、外注費が「給与」とみなされ、追加の税負担が生じる
- 社会保険料の未払いとして追徴を受ける
まずは「業務委託はあくまで対等な事業者間の契約である」という認識を持つことが大切です。
業務委託契約の種類を理解しよう

業務委託契約には、民法上大きく2種類の契約形態があります。依頼する業務の性質によって適切な形態を選ばないと、報酬の支払い条件や責任の範囲に関してトラブルが生じる可能性があります。
請負契約
請負契約とは、受注者が「仕事の完成」に対して責任を負い、発注者はその成果物に対して報酬を支払う契約です(民法632条)。
特徴 ・成果物(納品物)が完成して初めて報酬が発生する ・受注者は「完成させる義務」を負う ・成果物に欠陥がある場合は、修正・やり直しを求められる(契約不適合責任) ・業務の進め方や時間の使い方は受注者の裁量に委ねられる
請負契約が向いている業務の例 ・Webサイト・LP制作 ・システム・アプリ開発 ・動画・映像制作 ・建築・内装工事 ・記事・コンテンツ制作(本数・文字数が明確な場合)
注意点 成果物の定義が曖昧だと「完成の基準」でトラブルになりやすいため、何をもって納品完了とするかを契約書に明確に記載することが重要です。
委任・準委任契約
委任契約とは、受注者が「一定の業務を遂行すること」に対して報酬が発生する契約です(民法643条)。法律行為(弁護士・司法書士など)を依頼する場合は「委任」、それ以外の業務を依頼する場合は「準委任」と呼ばれます。
特徴 ・成果ではなく「業務の遂行」に対して報酬が発生する ・成果が出なくても、誠実に業務を行っていれば報酬請求が可能 ・受注者は「善管注意義務(善良な管理者としての注意義務)」を負う ・途中解約が比較的しやすい
- 経営コンサルティング・顧問業務
- 営業代行・テレアポ
- 経理・会計サポート
- 研修・セミナー講師
- カスタマーサポート業務
注意点 成果物ではなく「時間・工数」に対して報酬が発生するケースが多いため、報酬体系(月額固定・時間単価など)を明確にしておくことが重要です。
どちらを選べばよいか
判断に迷ったときは、以下の基準で考えてみましょう。
| チェック項目 | 請負契約 | 準委任契約 |
|---|---|---|
| 納品物(成果物)が明確に定義できる | ✅ | ❌ |
| 業務の結果よりもプロセスに価値がある | ❌ | ✅ |
| 作業完了の判断基準が明確 | ✅ | ❌ |
| 継続的な業務・月次サポートである | ❌ | ✅ |
迷ったときのポイント:「何かモノ・データ・コンテンツが完成して納品されるか?」を考えてみてください。YESなら請負契約、NOなら準委任契約が適切なケースが多いです。
③ 業務委託契約を結ぶメリット・デメリット
業務委託は使い方次第で非常に強力な手段になりますが、同時にデメリットやリスクも存在します。雇用契約と比較しながら、両面をしっかり理解しておきましょう。
発注側(企業・依頼主)のメリット

コストを大幅に削減できる 正社員を雇用する場合、給与だけでなく社会保険料(健康保険・厚生年金)の会社負担分(約15〜16%)、雇用保険料、交通費、福利厚生費などが発生します。一方、業務委託であればこれらのコストがかからず、純粋に業務の対価だけを支払う形になります。 たとえば月給30万円の社員を1人雇うと、会社の実質負担は毎月35〜40万円程度になりますが、業務委託であればその差額分をコスト削減できます。
必要なときだけ専門スキルを活用できる 「Webサイトをリニューアルしたいが、デザイナーを正社員で雇うほどではない」「決算期だけ経理の手が足りない」といった場合に、必要なタイミングだけ専門家の力を借りることができます。
即戦力として活躍してもらえる 正社員採用の場合、研修や業務習得に数ヶ月かかるケースが多いですが、個人事業主はすでに専門スキルを持つプロです。契約締結後、比較的早い段階から成果を期待できます。
採用・教育コストがかからない 求人広告費、採用担当者の工数、入社後の研修コストなどが不要です。プロジェクト単位・業務単位での契約が可能なため、人員計画の柔軟性が格段に上がります。
発注側(企業・依頼主)のデメリット・注意点
細かい指揮命令ができない 業務委託では、発注者は受注者に対して細かい業務指示や時間管理を行うことができません。どのように業務を進めるかは、基本的に受注者の裁量に委ねられます。「毎朝10時に出社して」「この方法で作業して」といった指示は、法律上問題になりえます。
品質にばらつきが生じるリスクがある 受注者のスキルや経験によって成果物の品質が左右されます。事前にポートフォリオや実績をしっかり確認し、試験的な小規模依頼から始めることが重要です。
情報漏洩リスクへの対策が必要 社内情報や顧客データを共有する際、情報管理が不十分なケースがあります。契約書に秘密保持条項(NDA)を盛り込み、情報取扱いルールを明確にしておく必要があります。
突然の契約終了リスクがある 個人事業主は複数のクライアントと取引しているため、繁忙期に受注を断られたり、他の案件を優先されたりするケースがあります。複数の委託先を確保するなど、リスク分散を意識しましょう。
個人事業主(受注側)のメリット・デメリット

発注側として個人事業主と良好な関係を築くためには、受注側の立場・事情を理解することも重要です。
- 働く時間・場所・方法を自分で決められる自由度の高さ
- 複数のクライアントと同時に契約できる(副業・掛け持ちが可能)
- スキルや実績に応じて報酬の交渉ができる
- 経費を事業の経費として計上できる
- 健康保険・年金は自己負担(国民健康保険・国民年金)
- 雇用保険がないため、仕事がなくなっても失業給付が受けられない
- 収入が不安定になりやすく、収入保証がない
- 確定申告など、経理・税務を自分で行う必要がある
受注側がこうしたリスクを背負っていることを理解した上で、適切な報酬設定・支払い条件・安定した発注量を心がけることが、優秀な個人事業主と長期的な関係を築く鍵になります。
偽装請負にならないための注意点
業務委託を進める上で、最も注意しなければならないリスクのひとつが「偽装請負」です。「うちは業務委託契約を結んでいるから大丈夫」と思っていても、実態が雇用と変わらない状態であれば、法律違反とみなされる可能性があります。
この章では、偽装請負の定義から具体的なNG行為、グレーゾーンの対処法まで詳しく解説します。
偽装請負とは?
偽装請負とは、契約書の形式上は「業務委託契約」や「請負契約」としているにもかかわらず、実態は発注者が受注者に対して直接指揮命令を行い、労働者と同様の働き方をさせている状態のことです。 つまり、「名ばかりの業務委託」です。
偽装請負は以下の法律に違反する可能性があります。
発覚した場合のペナルティ 偽装請負が発覚した場合、以下のような深刻な影響が生じます。
- 行政指導・是正勧告:労働基準監督署や厚生労働省から改善命令が出される
- 罰則:職業安定法違反の場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 未払い賃金・社会保険料の追徴:過去にさかのぼって請求されるケースがある
- レピュテーションリスク:報道・SNSによる企業イメージの毀損
「知らなかった」では済まされない問題であるため、しっかりと理解しておくことが不可欠です。
労働者性の判断基準

厚生労働省の通達をもとに、「その人が労働者かどうか」を判断するための主な基準を解説します。以下の項目に多く該当するほど、労働者性が高い(=実態は雇用)と判断されるリスクが高まります。
判断基準①:指揮命令関係があるか
業務委託において、発注者は業務の「結果」に対して依頼することはできても、「過程・方法」を細かく指示することは原則できません。
- ❌ 「この作業は必ずこの手順でやってください」
- ❌ 「今日中にこのタスクを終わらせてください」
- ✅ 「〇〇日までに△△の成果物を納品してください」
判断基準②:時間・場所が拘束されているか
受注者の働く時間や場所を発注者が管理・指定している場合、雇用関係とみなされやすくなります。
- ❌ 「毎日9時〜18時で作業してください」
- ❌ 「必ずオフィスに来て作業してください」
- ✅ 「業務時間・場所は受注者の裁量に任せる」
判断基準③:報酬が労働の対価になっていないか
報酬が「成果物・業務内容」ではなく、「時間・日数」に対して支払われている場合は、実質的に給与に近いと判断される可能性があります。
- ❌ 時給・日給・月給換算での報酬設定(業務の結果に関係なく支払う)
- ✅ 成果物・業務単位での報酬設定
判断基準④:専属性が高すぎないか
特定の発注者のみと取引するよう強制されていたり、事実上他の仕事ができない状況にある場合は、専属社員と同様とみなされるリスクがあります。
- ❌ 「他社の仕事は受けないでください」と明示・暗示している
- ❌ 業務量が多すぎて実質的に他の仕事ができない状態
- ✅ 他社との取引を自由に認める
判断基準⑤:業務遂行上の独立性があるか
受注者が自分の判断で業務を進められる裁量があるかどうかも判断材料になります。
- ❌ 発注者の社内ルールや業務マニュアルに完全に従わせている
- ❌ 受注者が使う道具・機材・ツールをすべて発注者が用意している
- ✅ 受注者が自分のスキルと判断で業務を遂行できる
やってはいけないNG行為チェックリスト

以下のチェックリストを参考に、自社の業務委託の実態を確認してみてください。
- 始業・終業時間を指定している
- 休憩時間・休日を会社のルールに合わせさせている
- 毎日の業務内容・タスクを細かく指示している
- 週次・日次で業務報告を義務付けている(管理目的で)
- 社員と同じオフィス
- 席で働かせている
- 会社のPC・メールアドレス・社内システムを付与している
- 社員証・名刺を渡して社員と同じように扱っている
- 朝礼・会議・社内イベントへの参加を義務付けている
- 他社との取引を禁止・制限している
- 時間・日数に対して報酬を支払っている
- 契約書なしで業務を開始している
- 業務範囲を口頭で曖昧に拡大している

ひとつでも該当する場合は、契約内容や業務の進め方を見直すことをおすすめします。
グレーゾーンの対処法
実務上、「どこまでが業務委託の範囲内か」という判断は難しいケースも多いです。特に以下のような状況はグレーゾーンになりやすいため、対処法とあわせて確認しておきましょう。
ケース①:定期的なミーティングへの参加を求めたい
対処法:「業務の進捗確認」や「成果物のフィードバック」を目的としたミーティングであれば問題になりにくいです。ただし、出席を義務とするのではなく、業務遂行上必要な打ち合わせとして位置づけ、契約書にも明記しておきましょう。
ケース②:社内ツール(SlackやNotionなど)を使わせたい
対処法:業務連絡や成果物の共有を目的としたツールの使用は、一般的に問題になりにくいとされています。ただし、「勤怠管理」や「業務監視」を目的とした使用は避けるべきです。
ケース③:特定のスタイル・フォーマットに沿って作業してほしい
対処法:成果物の品質基準や仕様(デザインガイドライン、コーディング規約など)を提示することは、業務委託の範囲内です。「成果物の要件」として契約書に明記し、作業プロセス自体は受注者の裁量に委ねましょう。
大原則:「何を作るか(成果物の要件)」は指定してよい。「どうやって作るか(作業プロセス)」は受注者の裁量に任せる。
⑤ 業務委託契約書の作り方【必須項目と注意点】

業務委託を行う際は、必ず契約書を書面で締結することが鉄則です。口頭での合意は「言った・言わない」のトラブルに発展しやすく、法的な証拠力も弱くなります。
この章では、契約書に盛り込むべき必須項目と、作成時によくある落とし穴を解説します。
契約書に記載すべき必須項目
業務内容・範囲
何をどこまで依頼するのかを、できる限り具体的に記載します。曖昧な表現は追加作業の要求やトラブルの原因になります。
悪い例:「Webサイトに関する業務全般」
良い例:「〇〇会社コーポレートサイトのトップページ・会社概要ページ・サービスページの計3ページのデザインカンプ作成(Figma形式での納品)」
報酬額・支払い方法
報酬の金額だけでなく、以下の項目も明確に記載します。
- 報酬の金額(税込・税抜の明記)
- 支払い方法(銀行振込など)
- 支払いサイト(例:納品月の翌月末払い)
- 振込手数料の負担者
契約期間
- 契約の開始日・終了日
- 自動更新の有無・条件
- 更新を行う場合の手続き方法
納期・成果物の定義
- 最終納品の期日
- 中間納品・マイルストーンがある場合はその日程
- 納品物のフォーマット・仕様(ファイル形式など)
- 修正対応の範囲(修正回数・対応期間)
秘密保持条項(NDA)
業務上知り得た情報(顧客情報・社内データ・未公開情報など)を外部に漏らさないよう定める条項です。
- 秘密情報の定義(何が秘密情報にあたるか)
- 秘密保持の期間(契約終了後も継続する場合が多い)
- 違反した場合の損害賠償
知的財産権の帰属
成果物の著作権・特許権などの権利が誰に帰属するかを明確に定めます。これを曖昧にしておくと、後に重大なトラブルになるケースがあります。
- 原則として、著作権は制作した個人事業主に帰属します(著作権法)
- 発注者に権利を移転したい場合は、「著作権の譲渡」条項を明記する必要があります
- 「納品後は発注者に著作権が移転する」と明示的に記載しましょう
再委託の可否
受注した業務を、受注者がさらに第三者に外注(再委託)することを認めるかどうかを定めます。品質管理やセキュリティの観点から、再委託を禁止または事前承認制にするケースが多いです。
解約・解除条件
- 契約を中途解約できる条件(双方から可能とするか)
- 解約の予告期間(例:30日前までに書面で通知)
- 契約違反があった場合の即時解除条項
損害賠償・責任の範囲
- 受注者の業務上のミスによる損害が発生した場合の賠償範囲
- 賠償額の上限設定(例:受領した報酬額を上限とする)
反社会的勢力の排除条項
近年、多くの契約書に盛り込まれる標準条項です。反社会的勢力との関係が判明した場合に契約を即時解除できる旨を定めます。
| 項目 | 重要度 | 主なポイント |
|---|---|---|
| 業務内容・範囲 | ⭐⭐⭐ | 具体的かつ詳細に記載する |
| 報酬・支払い条件 | ⭐⭐⭐ | 金額・期日・方法を明確に |
| 契約期間 | ⭐⭐⭐ | 自動更新の有無も明記 |
| 納期・成果物定義 | ⭐⭐⭐ | 修正範囲まで記載する |
| 秘密保持(NDA) | ⭐⭐⭐ | 期間・対象情報を定義する |
| 知的財産の帰属 | ⭐⭐⭐ | 譲渡する場合は明示的に記載 |
| 再委託の可否 | ⭐⭐ | 原則禁止か事前承認制が安全 |
| 解約・解除条件 | ⭐⭐⭐ | 予告期間を必ず設定する |
| 損害賠償 | ⭐⭐ | 賠償上限額の設定が重要 |
| 反社排除条項 | ⭐⭐ | 現在はほぼ標準的に盛り込む |
契約書作成時のよくある落とし穴
業務範囲が曖昧で追加作業が発生する
最もよくあるトラブルです。「Webサイト制作一式」といった曖昧な表現は、発注者は「スマホ対応も含む」と思い、受注者は「含まない」と思うといった認識のズレが生じます。 対策:業務範囲の「内側(含むもの)」だけでなく、「外側(含まないもの)」も明記する。
著作権の帰属を決めずに納品後にトラブルになる
納品されたデザイン・コードなどの著作権が受注者に残っており、「商用利用できない」「改変できない」といった問題が発生するケースがあります。 対策:契約書に「納品物の著作権は、報酬の支払い完了をもって受注者から発注者に譲渡される」と明記する。
口頭での業務範囲の拡大
最初の契約後、「ついでにこれもお願い」と口頭で追加作業を依頼し続けた結果、受注者が不満を持つケースがあります。偽装請負のリスクにもつながります。 対策:追加業務が発生した場合は、必ず変更覚書または新規の発注書を作成する習慣をつける。
電子契約でもOK?
近年、書面に代わって電子契約を利用する企業が急増しています。電子署名法に基づく電子契約は法的効力があり、印紙税の節約にもなります(電子文書には印紙税が不要)。
- クラウドサイン:国内シェアNo.1、日本語対応が充実
- DocuSign:グローバル標準、多言語対応
- Adobe Acrobat Sign:PDF管理と連携しやすい
- freeeサイン:freeeの会計ソフトと連携可能
税務・経理処理の基本知識

個人事業主への報酬支払いは、従業員への給与支払いとは税務処理の方法が大きく異なります。誤った処理をしたまま放置すると、税務調査の際に問題になるリスクがあります。基本的な知識を整理しておきましょう。
源泉徴収が必要なケース
個人事業主への報酬であっても、特定の種類の報酬については源泉徴収が必要です(所得税法第204条)。
源泉徴収が必要な主な報酬の種類
| 報酬の種類 | |
|---|---|
| 原稿料・記事執筆料 | 10.21% |
| デザイン料 | 10.21% |
| 翻訳料・通訳料 | 10.21% |
| 講演料・セミナー料 | 10.21% |
| 弁護士・税理士・社労士への報酬 | 10.21% |
| モデル・タレントへの出演料 | 10.21% |
| 100万円超の場合 | 超過分に20.42% |
【報酬が100万円以下の場合】
源泉徴収額 = 支払報酬額 × 10.21%
【報酬が100万円超の場合】
源泉徴収額 = 100万円 × 10.21% +(支払報酬額 − 100万円)× 20.42%
例)デザイン料として30万円を支払う場合
源泉徴収額 = 300,000円 × 10.21% = 30,630円
実際の支払額 = 300,000円 − 30,630円 = 269,370円
源泉徴収が不要なケース
以下のような報酬は、原則として源泉徴収が不要です。
- 物品の販売代金
- システム保守・運用費用(ただし開発費は対象になる場合あり)
- 不動産以外の賃貸料
- コンサルティング料(ケースによる)
支払調書の発行義務
年間5万円以上の報酬を支払った個人事業主がいる場合、翌年1月末までに税務署へ「支払調書」を提出する義務があります。
- 受取人の氏名・住所・マイナンバー
- 支払った報酬の種類・金額
- 源泉徴収した税額
また、受取人(個人事業主)本人にも支払調書のコピーを交付することが一般的です(義務ではありませんが、確定申告のために必要とされることが多い)。
外注費と給与の税務上の違い
業務委託の報酬は「外注費(業務委託費)」として経費計上しますが、税務調査において「これは給与ではないか」と指摘されるケースがあります。
なぜ問題になるのか(外注費と給与の違い)
| 比較項目 | 外注費 | 給与 |
|---|---|---|
| 消費税の仕入税額控除 | 対象になる | 対象にならない |
| 社会保険料 | 不要 | 会社負担が必要 |
| 源泉徴収 | 報酬の種類による | 必ず必要 |
外注費扱いにすることで、消費税の仕入税額控除を受けられるというメリットがあります。しかし、実態が雇用に近い場合は「給与」と認定され、控除が否認されるリスクがあります。
- 業務の諾否(仕事を断る自由)が受注者にある
- 他社との取引も自由に行える
- 成果物・業務内容に対して報酬が支払われている
- 受注者が自分の責任・費用で業務を行っている
2024年施行「フリーランス保護新法」で変わったこと
2024年11月1日、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称:フリーランス保護新法・フリーランス新法)が施行されました。
これまでフリーランスや個人事業主との取引に関する包括的な保護法は存在しませんでしたが、この法律の施行により、発注側企業には新たな義務が課されることになりました。
「うちには関係ない」と思っていると法令違反になるリスクがあります。この章では、企業が対応すべき内容をわかりやすく解説します。
フリーランス新法の対象となる取引
フリーランス新法が適用されるのは、以下の条件を満たす取引です。
| 項目 | 条件 |
|---|---|
| 発注者 | 従業員を使用する事業者(個人・法人を問わない) |
| 受注者(フリーランス) | 従業員を使用しない個人事業主または一人法人 |
| 取引内容 | 業務委託(物品の製造・情報成果物の作成・役務の提供) |
つまり、1人でも従業員を雇っている企業が、従業員のいない個人事業主に業務委託をする場合はすべて対象となります。中小企業・スタートアップも例外ではありません。
フリーランス新法の主なポイント
業務委託を行う際、発注者は契約締結時に以下の事項を書面または電磁的方法(メール・電子契約等)で明示しなければなりません。
① 契約条件の明示義務(すべての業務委託が対象)
- 業務委託の内容
- 報酬の額
- 支払期日
- 発注者・受注者の氏名または名称、住所
- 業務委託をした日
- 給付を受領・役務の提供を受ける期日
- 給付を受領・役務の提供を受ける場所
- 検査完了の期日(検査がある場合)
- 報酬の支払方法
口頭のみの合意は認められません。 必ず書面または電子的な方法で明示することが法的義務となりました。
② 報酬支払期日のルール(継続的業務委託が対象)
1ヶ月以上の継続的な業務委託の場合、報酬の支払期日を「給付を受けた日から60日以内」に設定しなければなりません。これまで「翌々月末払い」や「3ヶ月後払い」といった長期の支払いサイトを設定していた企業は、即座に見直しが必要です。
給付受領日 → 60日以内 → 報酬支払い
例)
・5月15日に成果物を受領
・遅くとも7月14日までに支払いが必要
③ 禁止行為(継続的業務委託が対象)
発注者は、以下の行為が禁止されています。
| 禁止行為 | 内容 |
|---|---|
| 受領拒否 | 正当な理由なく成果物の受け取りを拒否すること |
| 報酬の減額 | 正当な理由なく報酬を一方的に減額すること |
| 返品 | 正当な理由なく受け取った成果物を返品すること |
| 買いたたき | 市場価格に比べて著しく低い報酬を設定すること |
| 購入・利用強制 | 不要なものの購入や特定サービスの利用を強制すること |
| 不当な経済上の利益提供要請 | 正当な理由なく金銭・サービス等の提供を要求すること |
| 不当な給付内容の変更・やり直し強制 | 正当な理由なく業務内容を変更・やり直しをさせること |
④ 中途解除の事前予告義務(継続的業務委託が対象)
継続的な業務委託契約を中途解除または不更新にする場合、原則として少なくとも30日前に予告しなければなりません。突然の契約打ち切りは法律違反になる可能性があるため、注意が必要です。
⑤ ハラスメント対策の体制整備義務(継続的業務委託が対象)
フリーランスへのハラスメントに関する相談体制の整備が義務付けられました。社内のハラスメント相談窓口をフリーランスにも開放するか、別途窓口を設けることが求められます。
育児介護等との両立への配慮義務(継続的業務委託が対象)
フリーランスが育児・介護・病気治療などと業務を両立できるよう、申し出があった場合に必要な配慮を行う努力義務が課されます。
【書面交付・契約関連】
□ すべての業務委託で契約書・発注書を書面または電子で交付しているか
□ 契約書に法定の必須項目(報酬額・支払期日など)が記載されているか
□ 口頭のみで業務を依頼しているケースはないか
【報酬支払い関連】
□ 報酬の支払期日を60日以内に設定しているか
□ 長期の支払いサイトになっている契約を見直したか
【契約解除・更新関連】
□ 継続的契約を解除・不更新にする際、30日前に予告しているか
□ 突然の契約打ち切りを行っていないか
【ハラスメント・配慮関連】
□ フリーランスが利用できるハラスメント相談窓口を設けているか
□ 育児・介護等の申し出に対して配慮できる体制があるか
【禁止行為関連】
□ 正当な理由なく成果物の受領を拒否していないか
□ 一方的な報酬の減額・返品を行っていないか
□ 著しく低い報酬を設定していないか
| 違反内容 | ペナルティ |
|---|---|
| 書面明示義務違反 | 50万円以下の罰金 |
| 禁止行為(買いたたき等) | 公正取引委員会・厚生労働大臣による指導・勧告・命令・公表 |
| 命令違反 | 50万円以下の罰金 |
法律施行後の取引から適用されるため、既存の契約も見直しが必要です。
個人事業主の探し方・依頼先の選び方

業務委託の仕組みを理解したところで、実際にどうやって個人事業主を探せばよいかを解説します。依頼先の選び方によって、業務の品質やコミュニケーションの円滑さが大きく変わります。
① クラウドソーシングサービス
インターネット上でフリーランスに仕事を発注できるプラットフォームです。登録者数が多く、比較的短期間で依頼先を見つけられます。
- クラウドワークス:国内最大級、幅広いジャンル
- ランサーズ:審査制度があり品質が安定しやすい
- ココナラ:スキル販売型、小規模依頼に向く
- Upwork:グローバル対応、英語が必要
メリットは比較検討がしやすい点、デメリットは手数料や質のばらつきがある点です。
② フリーランスエージェント・マッチングサービス
エージェントが間に入り、要件に合ったフリーランスを紹介してくれるサービスです。
- レバテックフリーランス:ITエンジニア・デザイナー特化
- Midworks:エンジニア・クリエイター向け
- SOKUDANフリーランス:マーケター・ビジネス職に強い
- Workship:デザイナー・エンジニア向け
メリットはミスマッチが少ない点、デメリットは紹介手数料がかかる点です。
③ SNS・コミュニティ
X(旧Twitter)・LinkedIn・FacebookなどのSNSで活躍しているフリーランスに直接コンタクトを取る方法です。ポートフォリオや発信内容から人柄・スキルを事前に確認できます。
メリットは手数料がかからず人柄が伝わりやすい点、デメリットは信頼性の確認に時間がかかる点です。
④ 知人・紹介
信頼できる知人や取引先からの紹介は、信頼性が高くミスマッチが少ない傾向があります。
メリット:信頼性が高く、コミュニケーションが取りやすい
デメリット:トラブル時に関係が複雑になる可能性がある
- 実績・ポートフォリオの確認:自社の業務に近い実績があるかどうかを確認します。
- コミュニケーション能力の見極め:レスポンスが迅速か、不明点を自発的に確認してくるか等をチェックします。
- インボイス登録番号の確認:消費税の仕入税額控除を受けるために事前に確認します。
- 小規模な依頼から始める:いきなり大きな仕事を任せるのではなく、テスト案件から始めることをおすすめします。
- 報酬と条件のすり合わせ:修正対応の範囲、連絡が取れる時間帯、アフターサポートの有無などを丁寧に確認します。
業務委託の流れ【ステップバイステップ】
業務委託を実際に進める際の全体的な流れを、ステップ形式で解説します。初めての方でもスムーズに進められるよう、各ステップのポイントをまとめました。
依頼先を探す前に、「何を・いつまでに・どのクオリティで」依頼するかを明確にします。要件定義書などを作成すると認識齟齬を防ぎやすくなります。
候補者と事前に打ち合わせを行い、対応可能な業務範囲、スケジュール、報酬、懸念事項などを確認・交渉します。
条件がまとまったら、必ず書面または電子契約で契約書を締結します。フリーランス新法により、口頭のみの合意は法律違反になりました。
業務委託では直接の指揮命令はできませんが、成果物の品質を確保するための定期的な進捗確認やマイルストーンの設定は必要です。
納品された成果物が契約書に定めた要件を満たしているか確認します。修正が必要な場合は、契約書に定めた範囲内で対応を依頼します。
検収が完了したら、請求書を受領し、必要に応じて源泉徴収額を計算した上で報酬を支払います。その後、外注費として経費計上します。
継続する場合は再交渉や内容確認を行い、終了する場合は(継続的業務委託の場合)30日前の予告ルールを守って手続きを行います。
よくある質問(FAQ)
よくある質問(FAQ)
個人事業主を業務委託で雇う まとめ
- 「個人事業主を雇う」は法的に正確ではなく、正しくは「業務委託契約を締結する」
- 業務委託契約には「請負」と「準委任」の2種類があり、業務の性質に合わせて選ぶ
- 偽装請負は重大な法律違反であり、指揮命令・時間拘束・専属性の強制はNG
- 契約書は必ず書面または電子で締結し、業務範囲・報酬・知的財産・秘密保持を明確にする
- 税務処理は雇用とは異なり、源泉徴収・インボイス対応を正確に行う
業務委託は、正しい知識と適切な運用さえできれば、企業と個人事業主の双方にとって非常にメリットの大きい働き方です。
一方で、偽装請負・フリーランス新法・インボイス制度など、知らないでは済まされないリスクも存在します。正しい知識をもとに健全な業務委託関係を構築することが、長期的に良好な関係を築くための第一歩です。
